真言宗泉涌寺派大本山 法楽寺

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‡ 空海 『承和遺誡』(2)

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1.原文

旃陀羅惡人卽佛法國家大賊。大賊則現世無自他之利後生卽入無間之獄。無間重罪人。諸佛大慈所不能覆蔭。菩薩大悲所不能救護。何况諸天善神誰人存念。宜汝等二三子熟顧出家之本意惟尋入道之源由。

長兄以寛仁調衆。幼弟以恭順問道。不得謂賤貴。一鉢單衣除煩擾。三時上堂觀本尊三昧。五相入觀證無上悉地。變五濁之澆風勤三學之雅訓。酬四恩之廣徳興三寳之妙道。

此吾願也。自外訓誡一如顯密教。莫違越。若故違越者五大忿怒十六金剛依法撿殛。善心長者等依内外法律治擯而已。以一知十不煩多言

承和元年五月十八日

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2.訓読文

旃陀羅悪人は則ち仏法国家の大賊なり。大賊は則ち現世には自他の利無く、後生には即ち無間の獄*1 に入らん。無間重罪の人は、諸仏の大慈も覆蔭すること能はあざる所。菩薩の大悲も救護すること能わざる所なり。何に況や諸天善神、誰人か存念せん。宜しく汝等二三子、熟[つらつら]出家の本意を顧み、ただ入道の源由を尋ぬべし。

長兄は寛仁を以て衆を調へ、幼弟は恭順を以て道を問へ。賤貴を謂うことを得ず。一鉢単衣[いっぱつたんね]*2 にして煩擾[ぼんじょう]を除き、三時*3 に上堂して本尊の三昧を観じ、五相入観*4 して無上悉地*5 を証すべし。五濁[ごじょく]*6 の澆風[ぎょうふう]を変じて、三学*7 の雅訓を勤め、四恩*8 の広徳を酬[むく]ひて、三宝*9 の妙道を興せ。

此れ吾が願なり。自外の訓誡は一[もっぱ]ら顕密二教の如し。違越[いおつ]すること莫[なか]れ。もし故[ことさ]らに違越せば五大忿怒*10 十六金剛*11 、法に依って検殛[けんごく]せん。善心の長者*12 等、内外の法律*13 に依って治擯[ぢひん]*14 せよ。一を以て十を知れ、煩[わずらわし]く多言せず。

承和元年五月二十八日

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3.現代語訳

旃陀羅悪人[せんだらあくにん]は、すなわち仏陀の教えと国家の大賊である。大賊はまさしく現世における自己と他者の助けとなることなどなく、来世にはたちまち無間地獄に生まれ変わるのだ。無間地獄に落ちるほど重罪の人は、諸々の仏陀の大慈によってすらも救われることはない。菩薩の大悲をもってしても助けられることはないのだ。ましてや諸々のインドの神々や日本の神々など、誰が(このような者に)思いをかけるというのか。是非ともあなた達二三の仏弟子よ、よくよく出家の本懐を省みて、ただひたすら悟りへの道を歩め。

(出家して)年長の者は、心を広くし情けをもって、年少の者達をまとめ、(出家してまもない)年少の者は、恭順して(年長の僧に)教えを請え。(出自の)卑賤・尊貴をいってはならない。一つの鉄鉢を持ち、袈裟衣だけの生活でもって、(自身の)世間的執着など煩悩を除き、一日三度決まった時刻に仏堂に入って、(灌頂によって得た自分の)本尊の瞑想法を行い、(金剛界の密教冥想法)五相成身観を修して、この上ない悟りに至れ。(社会的規模の五つの悪しき現象が起こる)五濁の世における、道理の破れた世情に流されず、(持戒と冥想と智慧の)三学という悟りへの階梯を登り、(父母・国王・衆生・三宝からの)四恩という計り知れない恩に報いて、(仏・法・僧の)三宝の優れた道を興せ。

これは我が願いである。(この今述べた私の願い)以外の訓戒は、まったく顕教・密教の教えに同じである。(我が願い、仏陀の教えに)反し違うことなかれ。もし、故意に違反すれば、五大明王や十六金剛が、道理に相応の処分をなすであろう。善心ある(大寺院の責任者たる)長者などよ、(仏陀の教えに違反し戒律を守らぬ者は、)『四分律』と「僧尼令」に基づいて追放あるいは破門、還俗させよ。(私の言った)一を聞いて、十を知れ。(これ以上、私は)わずらわしく多言しない。

承和元年五月二十八日

現代語訳:沙門 覺應

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4.語注

  • 無間[むけん]の獄…無間地獄。阿鼻地獄とも。八大地獄のうち最下辺の、恐るべき苦しみを長大な時間受け続けなければならないという地獄。今生での救いは不可能とされる、五逆罪といわれる五つの大罪を犯したものが堕ちるとされる。その五つとは、「母を殺すこと」「父を殺すこと」「阿羅漢を殺すこと」「サンガの和合を乱すこと」「仏陀の体を傷つけ、血をながさせること」。→本文に戻る
  • 一鉢単衣[いっぱつたんね]…比丘が、自己の私的所有物としては、一つの鉄鉢と袈裟だけで生活すること。一般には「三衣一鉢[さんねいっぱつ]」あるいは「比丘の六物[ろくもつ]」などという。もっとも、これは比丘が清貧の生活を送るための原則であり、実際にはその他様々の生活必需品を所有することが、律にて許されている。→本文に戻る
  • 三時[さんじ]…晨朝[じんちょう]あるいは後夜[ごや]と、日中[にっちゅう]と、初夜[しょや]。それぞれおよそ午前6時、正午、午後8時を指す。→本文に戻る
  • 五相入観[ごそうにゅうかん]…「五相」とは、金剛界系の密教で説かれる「五相成身観[ごそうじょうしんかん]」という冥想法の略。五相成身観を行うこと。→本文に戻る
  • 無上悉地[むじょうしっぢ]…この上ない悟り。「悉地」は、サンスクリット「siddhi(シッディ)」の音写語で、「成就」の意。→本文に戻る
  • 五濁[ごじょく]…この世が悪に傾いたときの兆としておこると言われる五つの現象。その五つとは、「劫濁[こうじょく](天災や疫病、戦争などがおこる)」・「見濁[けんじょく](邪な悪しき思想がはびこる)」・「命濁[みょうじょく](生物の寿命が短くなる)」・「煩悩濁[ぼんのうじょく](人の煩悩によって悪行がはびこる)」・「衆生濁[しゅじょうじょく](全ての生物の能力や性質が劣悪になる)」。→本文に戻る
  • 三学[さんがく]…戒を受けて守ったうえで、冥想し、冥想の中で智慧を磨く、という仏教の修道法。それぞれいずれかを修めればよい、などというものではない。つまり、戒を守らなければ、冥想しても意味は無く、智慧など得ることはない、ことを意味する。また、ここに「ただひたすら信じる」などという項目はない。いや、そのような項目は「仏教には」ない。→本文に戻る
  • 四恩[しおん]…「父母・国王・衆生(生きとし生けるもの、意識を有する生命)・三宝」からの恩。『心地観経』に説かれる。→本文に戻る
  • 三宝[さんぼう]…「仏陀」と「仏陀の教え」と「仏陀の教えに従って出家した僧侶の集団」。一般に「仏法僧」の三宝といわれる。→本文に戻る
  • 五大忿怒[ごだいふんぬ]…密教の五大明王。その五とは、「不動明王[ふどうみょうおう]」「降三世明王[ごうざんぜみょうおう]」・「軍荼利明王[ぐんだりみょうおう]」・「大威徳明王[だいいとくみょうおう]」・「金剛夜叉明王[こんごうやしゃみょうおう]」。→本文に戻る
  • 十六金剛[じゅうろくこんごう]…密教の金剛界五智如来のうち、大日如来をのぞく四如来の眷属。阿閦如来の「金剛薩埵・金剛王・金剛愛・金剛喜」、宝生如来の「金剛宝・金剛光・金剛憧・金剛笑」、阿弥陀如来の「金剛法・金剛利・金剛因・金剛語」、不空成就如来の「金剛業・金剛護・金剛牙・金剛拳」の十六の金剛尊。→本文に戻る
  • 長者[ちょうじゃ]…一般には「東寺座主」の呼称であるが、ここでは大寺院など多くの僧徒を抱える責任者の意で用いているであろう。→本文に戻る
  • 法律[ほうりつ]…法は「(仏の)教え」、律は「『四分律』など律蔵に説かれる数々の僧侶の規定」。ここでは「内外の法律」となっているが、「内」とは先に挙げた意に同じ。「外」は朝廷によってしかれていた「僧尼令」などの法令を意味する。つまり、「仏教内での規定と国家の規定」の意。現代語訳において、内律を『四分律』と特定して挙げたが、日本で実行されていた律といえば、『四分律』であるため。その他の律蔵も学習はされていたが、実行されなかった。→本文に戻る
  • 治擯[ぢひん]…寺院から追放あるいは宗門から破門すること。最悪の場合、還俗させること。律にどのような場合にこの処置がなされるかの規定がある。→本文に戻る

語注:沙門 覺應

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