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‡ 元照『仏制比丘六物図』

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1.原文

於此須明攝護。略分四門 初明衣界。律云若人衣異處越宿。得捨墮罪。此衣須捨懺言墮罪者。墮衆合地獄。一晝夜當人間歳數十四億四十千歳。律明離護。竝約界論。界有多別。大略分二。一者作法攝衣界謂伽藍中結界。寛於院相。須加攝衣羯磨。結已除無村聚。通界護衣。二者自然護衣界。本宗他部。總有十五種。僧伽藍界一謂垣牆籬棚。四面周匝。雖結界處。望不結攝衣。亦號自然衣界。村界二。男女所居名村。即俗舍也。四相同上。準舍界中。更有六種別相。一者聚落界。謂村邑分齊處也。一者別界。如一聚落。止有一家。齊聚落外鷄飛及處。已外名異界。二同界者。謂多聚相渉。多論。四聚中間車梯四向相及。衣在四聚不失。僧祇臥四聚中。頭足兩手。各在一界。衣在頭底。天明頭離犯捨。手脚相及不犯。多論安衣二界中。身臥二界上不失。各有身分故 二者家界謂一聚内有多家者。亦有同別。若父母兄弟同處同業名同界。異食異業名別界。即下族界也。三者族界謂一家中異食異業。亦有同別。各有住處。則名一界。若在二處。及作食便利等衆處。皆失 四外道舍若同見同論。則同一界。若異見者。身衣二處。及在門屋中庭衆處竝失 五遊行營處諸戲笑等人暫止之處。若屬一主名同界。異主則彼此衆處等皆失。六重舍即多重樓閣等。同主則人衣互上下不失。異主則失。若單樓閣 僧祇梯蹬道外二十五肘。了論衣在下身在上者失。反此不失。樹界三極小下至與人身等。足蔭加趺。此有五別。一獨樹取日正中影覆處。雨時水不及處。二相連大林十誦一拘盧舍。即二里六百歩。三四樹小林善見。十四肘。計二丈五尺二寸 四藤蔓架浦萄瓜瓠等。僧祇四面各取二十五肘。計四丈五尺。謂從人身已去。非架外也 五明上下衣在樹下。身在上失衣。若衣在上身在下不失。有落義故 場界四村外空靜治五穀處。隨場廣狹爲限。 車界五住車取迴轉處。行車前後車杖相及不失。不及則失。 船界六住船取迴轉處。行船多有住處。不通來往。則有別界。反此通護。 舍界七謂村外空野別舍。四分無相若準僧祇樓閣。則取二十五肘。若準四分庫藏。則取四周内地。兩相隨用。 堂界八前多敞露 庫界九。積藏衆物 倉界十儲積穀米處。上三竝約内地爲界。 蘭若界十一即空逈處。八樹中間。計五十八歩四尺八寸 道行界十二善見前後四十九尋内。計三十九丈二尺。洲界十三。善見十四肘内。計二丈五尺二寸。 水界十四僧祇水中道行二十五肘。計四丈五尺。若衣在船上入水即失。若衣在岸上。兩脚入水即失。一脚不失 井界十五。僧祇道行露地井邊宿。二十五肘。亦四丈五尺内爲界。衣在井中。應繩連垂手入井不失。與上界別故。餘坑窨亦然。 二明勢分者。作法衣界則無。必須入界。方乃會衣勢分是自然。與作法界體異故。十五種自然。並隨界量外。例加一十三歩。計七丈八尺善見不健不羸人盡力擲石落處。古徳評之約一十三歩爲準。 但入勢分。即成會衣。不必入界若有染隔情三礙在界。即無勢分 三明四礙如上諸界。隨有失衣。一者染礙女人在界。恐染淨行。衣須隨身 二者隔礙水陸道斷。門牆阻障等。 三者情礙國王大臣。幻師。樂人。入界。奪失等想及人家兄弟分隔。各有分齊之處。 四者界礙彼此不相通。如身在道中。衣者在樹下。即失衣等。 四者明失否之相。律鈔。有三斷。一者律中。奪失燒漂壞五想即情礙也 水陸道斷。若賊惡獸命梵等難此是隔礙 必有上縁。但失受法。不犯捨墮。二者若先慢不護。後雖難縁。失法犯罪。三者若恒懷領受。諸難忽生往會不及。亦不失法。亦無有罪事須眞實。不可倚濫。 又問曰。忘不持衣外行。至夜方覺。取會無縁。失衣以否。答彼人恒自將隨身。忽忘例同長衣開之長衣忘不説淨不犯。更開十日

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2.訓読文

此に於て、須らく攝護を明すべし。略して四門を分つ。

初めに衣界1を明す。

2に云く。若し人と衣と、處を異して宿を越さば、捨墮罪を得。此の衣は須く捨して懺すべしと墮罪とは、衆合地獄に墮することを言ふ3。一晝夜、人間の歳數の十四億四十千歳に當る

律に離と護とを明すに、竝びに4に約して論ず。界に多の別有り。大に略して二に分つ。

一には、作法攝衣界5なり伽藍6の中の結界を謂ふ。院相より寛かれば、須く攝衣羯磨を加ふべし。結し已て村聚を除無し、界を通じて衣を護る

二には自然護衣界7。本宗と他部とに、總じて十五種有り。僧伽藍界一垣・牆・籬・棚、四面周匝せるを謂ふ。結界の處なりと雖も、攝衣を結せざるを望んで、亦自然衣界と號す。村界二男女の所居を村と名づく。即ち俗舍なり。四相上に同じ。舍界の中に準ずるに、更に六種の別相有り。一には聚落界村邑の分齊の處を謂ふ。一には別界。一聚落に止一家有るが如し。聚落の外、鷄の飛び及ぶ處を齊て、已外を異界と名づく。二は同界とは、多聚相渉るを謂ふ。多論には、四聚の中間に車梯四向に相及ぶに、衣四聚に在には失せずと。僧祇には四聚の中に臥して、頭足兩手、各の一界に在り。衣頭の底に在るに、天の明るに頭離れば捨を犯ず。手脚相及ぶには犯ぜずと。多論には衣を二界の中に安じて。身二界の上に臥さば失せず。各の身分有るが故にと。二には家界一聚の内に多家有る者を謂ふ。亦同別有り。若し父母兄弟同處同業なるを同界と名づく。異食異業なるを別界と名づく。即ち下の族界なり。三者族界一家の中にて異食異業なるを謂ふ。亦同別有り。各の住處有れば、則ち一界と名づく。若し二處及び作食・便利等の衆處に在けば皆失す。四外道舍若し同見同論なれば、則ち同一界なり。若し異見ならば、身と衣と二處なると、及び門屋・中庭の衆處に在けば竝びに失す。五遊行營處諸の戲笑等の人暫止の處なり。若し一主に屬すれば同界と名づく。異主なれば則ち彼此の衆處等、皆失す。六重舍即ち多重の樓閣等なり。同主ならば則ち人と衣と互ひに上下すれども失せず。異主ならば則ち失す。若し單の樓閣ならば、僧祇には梯蹬道の外二十五肘なり。了論には衣を下に在て、身上に在らば失す。此に反すれば失せず。樹界三極小は下人身と等しくに至る。加趺を蔭ふに足る。此に五別有り。一には獨樹日の正中に影の覆ふ處、雨の時、水の及ばざる處を取る。二には相連の大林十誦には一拘盧舍、即ち二里六百歩なり。三には四樹小林善見には、十四肘。計るに二丈五尺二寸。四には藤蔓架浦萄・瓜瓠等なり。僧祇には四面に各の二十五肘を取る。計るに四丈五尺なり。人身從り已去を謂ふ。架の外には非ざるなり。五には上下を明す衣は樹下に在り、身は上に在れば衣を失す。若し衣上に在り身は下に在れば失せず。落る義有るが故に。場界四村外の空靜に五穀を治る處なり。場の廣狹に隨て限と爲す。車界五住車は迴轉の處を取る。行車は前後、車杖の相及ぶは失せず。及ばずんば則ち失す。 船界六住船は迴轉の處を取る。行船は多く住處有り。來往に通ぜざれば則ち別界有り。此に反せば通護す。舍界七謂く村外の空野・別舍なり。四分には相無し。若し僧祇の樓閣に準れば、則ち二十五肘を取る。若し四分の庫藏に準れば、則ち四周の内地を取る。兩相、隨て用ひよ。 堂界八前多く敞露なり。庫界九衆物を積藏す。倉界十穀米を儲積する處なり。上の三は竝びに内地に約して界と爲す。蘭若界十一即ち空逈處、八樹の中間なり。計るに五十八歩四尺八寸。道行界十二善見には前後四十九尋の内なり。計るに三十九丈二尺なり。洲界十三善見には十四肘の内なり。計るに二丈五尺二寸なり。水界十四僧祇には、水中の道行は二十五肘。計るに四丈五尺なり。若し衣、船上に在て水に入らば即ち失す。若し衣、岸上に在て兩脚水に入らば即ち失す。一脚は失せず。井界十五僧祇には、道行して露地の井邊に宿さば、二十五肘なり。亦四丈五尺の内を界と爲す。衣を井中に在かば、應に繩を以て連ね垂れ手を井に入るべし。失せず。上の界と別なるが故に。餘の坑窨も亦然なり

二に勢分8を明すとは、作法衣界には則ち無し。必ず須く界に入りて、方めて乃ち衣に會すなり勢分は是れ自然なり。作法界と體異なるが故に。十五種の自然には、並びに界の量の外に隨て、例して一十三歩を加ふ。計るに七丈八尺なり善見9には不健不羸の人、力を盡して石を擲るに落る處なり。古徳之を評するに一十三歩に約して準と爲す。 但だ勢分に入れば、即ち會衣を成ず。必ずしも界に入らず若し染・隔・情の三礙、界に在ること有れば、即ち勢分無し

三に四礙10を明す上の如きの諸界、有るに隨て衣を失す

一者染礙女人界に在らば、淨行を染ぜんことを恐る。衣須らく身に隨ふべし。二には隔礙水陸の道斷じ、門牆阻障する等なり。三には情礙國王・大臣・幻師・樂人の界に入ると、奪失等の想、及び人家兄弟分隔して各の分齊有るの處なり。四には界礙彼此相通ぜず。身は道中に在り、衣は樹下に在りて、即ち衣を失するが如き等なり

四には失否の相を明す。

律鈔11には三斷有り。一には、律の中に奪・失・燒・漂・壞の五想即ち情礙なり、水陸の道斷ず、若しは賊・惡獸・命・梵等の難此は是れ隔礙、必ず上の縁有らば、但だ受法を失して捨墮を犯ぜず。二には、若し先より慢にして護らざるに、後に難縁ありと雖も、法を失し罪を犯ず。三には、若し恒に領受を懷き、諸難忽ちに生じて往て會ふに及ばざるは、亦法を失せず。亦罪有ること無しと事須く眞實なるべし。倚濫するべからず

又問ふて曰く、忘れて衣を持せずして外に行て、夜に至りて方めて覺す。取會するに縁無くんば、衣を失せんや否やと。答ふ、彼の人恒に自ら將に身に隨ふ。忽に忘れたるは長衣に例同して之を開す長衣を忘れて説淨せざるは犯にあらず。更に十日を開す

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3.現代語訳

この(三衣を常に身に携えるという)点については、須らく攝護を明らかとしなければならない。そこで概して四門に分類し、これを示す。

◇ 衣界〈摂衣界。離三衣(比丘が三衣から離れて一夜を過ごすこと)しても犯戒とならない範囲〉

律には、「もし人と衣と、処を異にして一夜を過ごしたならば、捨墮罪となる。この衣は須らく捨して懺悔せよ」とある捨墮罪とは、衆合地獄に墮することを言う。そこでの一昼夜は、人間の年数の十四億四十千歳にあたる

律においては離衣と護衣とを明らかとするに際し、通じて「界」に約して論じられているが、「界」には多くの別がある。これは大略して二つに分けられる。

一つには作法攝衣界である伽藍の中の結界である。(結界が)寺院境内より広い場合には、須く攝衣羯磨を加えなければならない。結界し終わってから(結界内に重複している場合は界の範囲から)村聚を除外し、その界を通じて衣を護るのである

二つには自然護衣界である。本宗と他部とに、総じて十五種が挙げられる。

(1) 僧伽藍界垣・牆・籬・棚などによって四面が取り囲まれているもの。結界の処であったとしても(羯磨によって)攝衣界を結していない場合があるが、それをまた自然衣界ともいうのである

(2) 村界男女が居住している地を村と名づける。すなわち俗舍である。四相は上記と同様である。舍界の中に準じたならば、更に六種の別相がある

① 聚落界村邑の範囲である。第一は別界。一つの集落にただ一軒しかないような地であって、その集落の外にむかって鷄が飛びえる範囲に限る。その範囲外を異界という。第二は同界。多くの集落が連なるようにある場合をいう。『薩婆多論』には、「四つの集落の中間にあって車梯が四方に延びているのであれば、衣が四つの集落にあるならば失衣とはならない」とある。『摩訶僧祇律』には、「四つの集落の境界に臥して、頭・足・両手がそれぞれの集落の範囲にあり、衣が頭の下にあった場合、夜が明けて頭が(衣から)離れたならば捨衣を犯すこととなる。手脚相及ぶには犯ぜず」とある。『薩婆多論』には、「衣を二つの集落に(別々に)置いてあり。身体はその二つの集落の境界の上で臥しているならば失衣とはならない。それぞれの身体の部分が(二つの集落の範囲に渡って)あるためである」とある

② 家界一集落に多くの家がある場合である。またこれに同・別の違いがある。父母兄弟が同処で同業であるのを同界という。食事を異にし、生業を異にしているのを別界という。すなわち下記の族界である

③ 族界一家の中にて食事を異にし、生業を異にしている場合である。またこれに同・別の違いがある。(一家の中でも食事を異にし、生業を異にしている者等)それぞれの住む場所があるならば、それらそれぞれは一界である。もし(衣を)二つの異なる場所、あるいは作食・便利等の別々の所に置いたならば失衣となる

④ 外道舍もし同見・同論であれば、それは同一界である。もし異見であれば身と衣と二処となり、及び門屋・中庭の衆処に置いたならば、共に失衣となる

⑤ 遊行営処諸々の戲笑等の人が一時的に滞在する所である。もし一人の所有者に屬する処であれば同界という。複数人の所有地であればそれは彼此の衆処等であって、みな失衣となる

⑥ 重舍すなわち多重の樓閣等である。一人の所有者のものであれば、人と衣とが互いに上下に在ったとしても失衣とならない。階層毎に所有者が異なるのであれば、その場合失衣となる。もし一つの樓閣であれば、『摩訶僧祇律』では梯蹬道の外二十五肘である。『了論』では衣が下階に在って、身が上階に在るならば失衣となる。これと逆であれば失衣とならないとされる

(3) 樹界極小は人の下半身と等しく、結跏趺坐した時にこれを覆うだけの大きさである。樹界には五つの別がある

① 独樹日の正午に(樹が)影を落とす範囲であり、雨の時、雨粒が(直接)当たらない処である

② 相連の大林『十誦律』では一拘盧舍とされ、すなわち二里六百歩である

③ 四樹小林『善見律』では十四肘とされ、これを計れば二丈五尺二寸となる

④ 藤蔓架葡萄・瓜・瓠等である。『摩訶僧祇律』では四方に各二十五肘を取るとされる。これを計れば四丈五尺となる。人身より已去を云うものであって、架の外のことではない

⑤ 上下を明す衣が樹下にあり、身が樹上にあるならば失衣となる。もし衣が樹上にあって身が樹下にあるならば失衣とならない。これは(衣が身に)落ちる可能性があるためである

(4) 場界村外の空地に五穀を収める処である。その土地の広狹に従って限度とする

(5) 車界駐車している車はその回転しえる範囲である。移動中の車は前後で、車杖が届く範囲であれば失衣とならない。届かない範囲であれば失衣となる

(6) 船界停泊中の船はその回転しえる範囲である。航行中の船ならば、(船には)多くの場合居住空間があるけれども、自由に行き来出来ない場所であれば別界となる。もしそうでなければ失衣とならない。

(7) 舍界村外の空野・(村外れの)家である。『四分律』では特に定めがない。もし『摩訶僧祇律』の樓閣についての規定に準じたならば、二十五肘の範囲となる。もし『四分律』の庫蔵に準じたならば、四方の内地の範囲となる。そのいずれかの規定に従え

(8) 堂界その前が多くの場合、広く、露地となっている処である

(9) 庫界様々な物を集積する処である

(10) 倉界穀米を蓄積する処である。上記の三界はいずれも内地にまとめて界とするものである

(11) 蘭若界すなわち(村落から)離れて人気のない処であって、八樹の中間である。これを計ったならば五十八歩四尺八寸となる

(12) 道行界『善見律』では、前後四十九尋の範囲とされる。これを計ったならば三十九丈二尺となる

(13) 洲界『善見律』では、十四肘の範囲とされる。これを計ったならば二丈五尺二寸となる

(14) 水界『摩訶僧祇律』では、水中の道行は二十五肘とされる。これを計ったならば四丈五尺となる。もし衣が船上にあって水に落ちたならば失衣となる。もし衣が岸上にあって両足を水に入れたならば失衣となる。片足だけならば失衣とならない

(15) 井界『摩訶僧祇律』では、道行中、露地の井戸周辺にて宿泊した場合で、二十五肘の範囲とされる。また四丈五尺の範囲を界とする。衣を井戸の中に置くならば、繩にて縛って垂れ入れ、手を井戸の内に入れよ。その場合、失衣とならない。(井戸の)上の界とは別となるためである。その他の竪穴・穴ぐらなどの場合も同様である

◇ 勢分〈自然護衣界の範囲外ながら失衣とされない、いわば「みなし自然界」。界外の若干の範囲〉

作法衣界には(勢分は)無い。必ず須く界に入っていなければならず、そこではじめて衣と共と成り得る勢分は自然護衣界においてのみ適応される。(自然護衣界は)作法界と本質的に異なるためである

十五種の自然護衣界では、総じて界の範囲の外に例えば十三歩を加える。これを計ったならば七丈八尺となる『善見律』では、平均的体力の人が力の限りに石を投げて落ちた範囲とされる。古徳がこれについて評し、それは十三歩であるとして基準としたのである。 ただ勢分に入っただけで会衣〈三衣と共なること〉を成ずるのであって、必ずしも界に入らなければならないものでもないもし染・隔・情の三礙が界にあったならば勢分は無い

◇ 四礙上記の諸界において、(以下の四礙いずれかが)あった場合、失衣となる

(1)染礙女人が界にあったならば、淨行が害われる可能性がある。衣は須らく身に従えておくべきである

(2)隔礙水陸の道が断じられ、門牆によって阻障された場合等である

(3)情礙国王・大臣・幻師・楽人が界に入った場合、あるいは(衣を)奪われた・失った等と想った場合、および人家の兄弟がそれぞれ分かれて各自が別に食事するなどしている場合である

(4)界礙(界が)彼此通じておらず、身は道中にあり衣は樹下にあって、すなわち失衣となるような場合である

◇ 失否の相 

『律鈔』では三断有るとされ、「律の中にて言われる奪・失・燒・漂・壊の五想すなわち情礙、あるいは水陸の道が断じられ、もしくは賊・悪獣・命・梵等の難これらは隔礙、必ずそれらの縁があったならば、ただ受法を失するけれども捨墮の犯とはならない。もし以前、驕慢であって衣を護らぬままであったならば、その後に難縁があったとしても、受法を失しまた罪を犯ずることとなる。もし常に衣を受持しており、しかし諸々の難縁がにわかに生じて衣と共なりえない場合は、受法を失することはない。そして罪にもならない」とある(難が生じたと弁解してもその)事態は必ず事実でなければならない。自分勝手に事実を曲げて語ってはならない

また問う。「失念して衣を持せずに外出し、夜になってはじめて気づいた。衣と共なろうとしてもどう仕様もない場合、失衣となるであろうか」。

答う。「その人が常に自ら(衣を)身に従えておりながら、しかしたまたま忘れたのであれば、長衣に例同してこれを許す」。長衣を忘れて説浄しないことは犯にはならない。更に十日の猶予が許されている。

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4.脚註

  • 衣界[えかい]…比丘には離衣戒(離衣宿戒・離三衣戒)などがあって、三衣を常に身につける、あるいは所持していなければならない。しかし、寺内・房内などにあって、作務や水浴、用便などしている際にそれらを文字通り常に身につけることなど出来ない。そこで、この規定に反しない「範囲」というものが設定される。それが衣界である。これには大別して二種あって、それぞれまたさらに時と場合、場所によって様々に分類される。→本文に戻る
  • [りつ]…『四分律』巻六「自今已去與比丘結戒。集十句義乃至正法久住。欲説戒者當如是説。若比丘衣已竟迦絺那衣已捨。三衣中若離一一衣異處宿尼薩耆波逸提。如是世尊與比丘結戒〈中略〉此捨墮衣。應捨與僧。若衆多人若一人。不得別衆捨。若捨不成捨。突吉羅」(T22. P603b-604a→本文に戻る
  • 堕罪とは、衆合地獄に云々…堕罪とは捨堕罪の略であり、それはサンスクリットnaiḥsargika-prāyaścittika(尼薩耆波逸提)の訳である。より現代的にこれを訳せば、「捨てられるべき-懺悔されるべき(事柄)」というほどの意である。実際、もし比丘あるいは比丘尼が捨堕に抵触した物品を所持した場合、その比丘はその所有権を僧伽に対して放棄した上で、四人以上の比丘あるいは比丘尼(すなわち僧伽)に対してその罪を懺悔しなければならない。
     さて、ここで元照は「堕罪とは、衆合地獄に堕することをいう」などという、いわば噴飯物の理解を開陳しているが、まったくの僻事である。彼に梵語の素養がまったくなく、また律というものを過度に「宗教的に」理解していた証とでもいうべきものである。
     ところで、この衣界という概念、規定から明らかとなるであろうが、律とはいわゆる(僧伽という自治組織における)現代の法律の如きものであって、むしろその故に煩雑とも思える様々な規定がされているのである。律を「どこまでも宗教的なものであって、それはいわばキリストの違反したパリサイ人の律法の如きものだ」などという固定概念でこれを眺めたならば、結局何も理解することは出来ないであろう。→本文に戻る
  • [かい]…範囲、境界。界は三衣や鉢に限らず、僧伽の布薩や安居など重要な諸行事、さらには布施があった場合の分配など僧が日常生活を送るのに際して、必ず定めておかなければならないもの。作法(白二羯磨)を伴う界には、大別して摂僧界・摂衣界・摂食界の三種結界がある。→本文に戻る
  • 作法攝衣界[さほうしょうえかい]…三種結界の一つ。三衣を必ずしも常に身に着け、あるいは携えていなくてもよい範囲。作法(羯磨)によって決定される。→本文に戻る
  • 伽藍[がらん]…サンスクリットsaṃgha-ārāmaの音写、僧伽藍摩の略。僧園または僧院などと訳される。→本文に戻る
  • 自然護衣界[じねんごえかい]…作法によらず自然に設定される、三衣を必ずしも常に身に着け、あるいは携えていなくてもよい範囲。→本文に戻る
  • 勢分[せいぶん]…自然護衣界の範囲外ながら失衣とされない、いわば「みなし自然界」。界外の若干の範囲。→本文に戻る
  • 善見[ぜんけん]…僧伽跋陀羅訳『善見律毘婆沙』十八巻。従来長らく『四分律』の注釈書と見なされてきたが、近代日本の仏教学者高楠順次郎博士によって、大徳Buddhaghosaによって著されたパーリ律の注釈書Samantapāsādikāの漢訳であることが判明した。分別説部のパーリ律と法蔵部の『四分律』は同じく上座部系の律蔵であるけれども、その他の上座部系の律蔵より多く近似しており、その昔の支那・日本で『四分律』の注釈書と考えられたのも無理からぬことであった。
     ここで引かれているのはその巻八「中人者。不健不羸。擲石者。盡力擲也。至石所落處。不取石勢轉處」(T24. P729c→本文に戻る
  • 四礙[しげ]…道宣が『行事鈔』巻下にて『四分律』の所説を整理して示した四種の障礙。「四分中。若失想道斷難縁等失受。具有四礙染隔情界」(T40. P107b→本文に戻る
  • 律鈔[りつしょう]…『行事鈔』巻中「律不犯中。奪失燒漂壞五想者衣實見在妄起想心。經宿失受無罪。決心謂失即是捨心。無情過故不犯捨也。善見不失者。師主疑心恐在界外。此謂失體不同。論云衣 不失受也 若水陸道斷。若賊惡獸命梵等難。若不捨衣不犯。此是情隔兩礙失受無罪。若先慢。不攝。後雖經縁失衣犯捨。若諸難忽生。往會不得。洹懷領受。必不失法。由難忽生非情過故。離亦無罪」(T40. P67b
     元照は上記の道宣の説をまとめ、『行事鈔』の自身が著したその復注書『資持記』において、、失衣とならない三つのを条件を「三断」であるとしている。→本文に戻る

現代語訳 脚註:非人沙門覺應
horakuji@gmail.com

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